所在
白い花弁のドクダミの
オオバコの、アマドコロの、ケヤキの、カエデの、ネズミモチの
あらゆる植物の
毛細根が入りまじって
地球の腐植土中をのびる
昼も夜も
それぞれのスピードを保って
釜無川原疎林に原初からの息吹が伝わる
どこまでもはてなく
私は昇っていく
または無限に落ちていく
光も音もないところは
おちるでものぼるでもない
アメリカ航空宇宙局は
最新鋭天体望遠鏡がとらえた二千数百万光年かなたの
新発見宇宙の写真を発表した
赤い光の縁を持つその宇宙は扁平で
むかし母が焙烙で焼いてくれた薄焼きに似ている
対岸の村から釜無川の信玄橋を渡って
疎林に住む猫に餌をやりに通う老夫婦がいる
猫にも
人間にも
これよりほかに所在はない
老夫婦に
猫に餌を運ぶより在りようはない
猫も
人間も
この星の
疎水溝を覆って野茨が茂る疎林の
ここにいるだけ
川音が遠く響いてくる
ただよう微塵の身には係累もない
夕日がケヤキの肌をうすく光らせて