シロツメグサ

 

寒には穴山橋脇でハヤを狙った

釜無の水は空をうつして少し濁っていて

北の高みから甲斐駒が

顔も手も切れるような山背風を

ときどき吹き下ろして寄越した

猫柳の株をよけて

えぐれのふかみへ川虫を流し込むと

白い腹のヤマメが荒く引き込んだ

 

釜無河原から

ハリエンジュの長いトゲの枝を透かして

溶岩台地五〇メートル高の崖を見上げても

いまは冬だから

赤褐色した翼のタカはいない

しかし夏になってもチョウゲンボウが

崖の巣穴へ戻らないというのはいつ頃からか

ビルの街でタカを見かけたという新聞記事もあったが

崖穴の巣を捨てて

古武士のような猛禽は

街でどう暮らしているのだろう

 

タカの巣穴の七里岩の地下深く

さらに戦争を続けるために掘られた地下壕は

奥行き一〇〇メートルの六本が横にも連結されていて

地下組立工場はもうすぐ完成するはずだった

 

陸軍航空本部が「韮崎地下工場隧道設計図」に描いたとおりの

七里岩地下壕は

ちょっと入り口をふさいだだけで

今日もそのままある

※「山梨の戦争遺跡」山梨日日新聞社

 

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