ヌエコドリさわぐ

 

陽光に葉を光らせ茂る桃畑も

老杉の森に沈む称願寺も

見上げる大栃山、釈迦が岳、黒岳、神座山、御坂山におおわれて

我が郷里黒駒村は

金川が流れくだる細い傾斜地に家々が点在する

 

村の称願寺の墓地には

陸軍大尉正7位勲5等功5級長島隆三の墓

昭和17年春東部第13部隊副官から南太平洋派遣の第17軍軍令部付として転属

同年11月6日ソロモン諸島ガダルカナルにて戦死享年40歳と刻んである

故陸軍軍曹勲7等功6級小林友男の墓

友男は大正10年3月生まれ黒駒小学校から同青年学校で学んだ

昭和17年5月18日戦死22歳

二人ならんで刻まれた石もある

故海軍2等兵曹堀内和男の墓

報国院忠阿道居士昭和18年3月3日ニューギニアにおいて戦死す享年25歳

故海軍整備兵長堀内光行の墓

硫黄院炎阿光行居士昭和20年3月17日硫黄島において戦死す享年23歳

我が子二人の墓を建てた父親の名が刻んである

 

昔落雷で梢を割かれたカヤの古木そびえる称願寺の

養護老人ホームに住む若宮のカヨコさんが墓地の草取り奉仕の一服時に

刻まれた父親の名前のあたりを撫でながら

傍らの仲間に言う

「ヌエが騒ぎやすねえ、晩がた、このごろ」

焦げ茶色の皺をうごかせて八反田のヨシノリやんがこたえる

「おお、低くとぶぞい、ひゅう、ひゅうって鳴きながらなあ」

ヌエコドリなく兵士二人の墓にもうでるちちははもすでになく



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