波をはしらせよ
釜無川疎林を
固く包む空気を
そとから根気強くたたく音がする
空気の内側から
応えてたたく音がする
はじめ低くゆっくり
次第に強く
いつもそのように
音ははじまる
竜王平の田圃から
横一線に
つながる疎林がみえる
小鳥の姿はなく
木々の枯れ枝がしずまる林は
三月の雨にけぶっている
地表に雪が消え
雲が浮いている
トビがまわる空の下
政治革新を訴えて
畑の畔をいく
枯葉のようにふるえるたましいよ奮い立てと
八ヶ岳から下る釜無がささやく
流れに
大地を揺るがす滝も
深い緑をたたえる深淵もない
薄い梢の
空に透かして
赤石の峰峰が連なっている
ケヤキの幹に
シューベルト二十七歳の楽章の
地の底のよどみの
きわみない共感をきく
釜無の流れもほそく
すでに老いたる人
川面に強い風を起こせ
白刃の
波をはしらせよ