モズよ高鳴け

 

雨に打たれふるえているわが家の庭の

コシアブラの枝の先端にモズが一羽

濡れそぼちじっと黙って止まっている

まるく尾を振り鳴く鳥は

空の高みにしみいるこえで

きのうはひがな高鳴きに鳴いた

台風せまる七月の空を震わせて

 

すでにむかしヤマメを追うと

私らは三人で高根村野麦への峠を登っていった

つづら折れの道の草むらの陰に

わずかに立つ石仏は苔に顔立ちもさだかでなく

どの仏も小さかった峠道

幼く身内とはなれて死んだ製糸女工たちの悲しみの

切なさを石に刻んだ貧しい父母やきょうだいが

野麦の道を背負子で運んだ石仏は

ここにも一体ここには二体

ひっそり道端の草やぶ陰もはばかるような

肉親の祈りが埋まる粘土道を峠まで

野麦峠にはひろがる野麦野の

おっかあ恋しおっとう恋し

飛騨にむかう空にふかく

高鳴くモズの声を聞いた

 

褐色の背も尾も雨にぬれて

西空に高い雲の中の鳳凰三山の方を向く

孤高の鳥に雨はやまず

きょうなおこの国に

二四歳で過労死した息子の名誉のために

たたかうのは父七三歳母六九歳

 

尾羽ぬれそぼつ身を

コシアブラの葉を震わせ

正義の志なきはされと

モズよ高鳴け

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