カタクリ
砂礫土の御勅使川扇状地が
釜無川に当って終わるこのあたり
新しくこしらえたまっすぐな道を行く
車が進むにつれてゆれる南のそら
かすむ富士が現われたり消えたり
生活排水溝がとおる崖下の薄い雑木林に
緑の葉をつけてさびしいカタクリが
ヒトリシズカやアマドコロの白にまじって
紅紫に咲いている
半世紀平和憲法を守ってきた者の手から
影もかたちも残さずそれを消し去るというのか
ついにわれら国民はちから及ばず
「花の九条」ごと憲法を手放したと
歴史書に残るというか
やさしい人々はこれからも
「紅紫色の花を守れ！」と
（花を守る憲法は守らずに）
金山沢、御庵沢から御勅使川扇状地にながれる
砂礫のような日常を
南の空に揺れる富士の姿を呼吸して
ながく生きるというのか