イヌノフグリ


ケヤキの新緑にキリの花が浮いている
紫の小宇宙だ

ヨーロッパ宇宙開発機構は
二十一世紀の宇宙科学探査計画で
赤外線衛星を成功させ
小惑星探査「ロゼッタ」につづく
ホライズン二000プラス計画とやらを策定した

微小な宇宙探査機がたったひとり
無際限の闇空間を
やすみなくとんでいく
無機物だが
はるか人間の触覚だ
とびつづける意思だ

ノイバラの香りは花の触覚
キリの宇宙のむらさきを
花からの探査機がさまよう

わたしらの車は比志の坂道を
霧山トンネルから
春もみじがうつるダム湖へ抜け
ミツバツツジが咲く横尾山の中腹の
イヌノフグリの星型の花が
さびしく残るくさむらの山ひだを
次々折れた

ノビルの道端に
歴史論争も聞こえてくるが
人間が真実を隠すのは
罪悪の記憶の苦悶のせいか
植物でもない人間が
かくしおおせたと思っても
暗黒の宇宙では
小惑星が太陽光を反射して
イヌノフグリの花のように
さびしく美しく咲くのだろう

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